スラング

十時間以上寝てしまったので
準備運動がてらに。




以前馬乗りコーチみたいなのしてた頃の話。
スケジュール確認やら騎乗の相談やらで
後輩とメールでやりとりすることがまー
当然ながらありました。
そんときのメールについて度々
相手にキレたり怯えさせたりってのがありまして。




例えば、
相手にそのつもりがなかろうと
俺としてはあり得ないってことでキレたのが、
メールの文に句読点がついてないこと。


明日は4時から運動します、お願いします


みたいにね、
最後に「。」がついてねーの。
んで、それをどうして?って当人に直接聞いたら、
なんか2ちゃんねるとかでは付けないのがフツーらしく、
そいつは2ちゃんねる大好きみたいで、
その文化をそのまま俺へのメールに反映させたと。


俺「お前履歴書とか重要な文書にもそんな風に書くの?」
そいつ「いや、それはさすがにしませんけど」
俺「俺へのメールではやって大丈夫なんだ」
そいつ「……すいません」


……いや、ちっちぇえヤツって言われんの承知で
俺が癇に障ったのはね。
ソイツの中で「重要なものにはちゃんと書く」って
常識があるってことだったの。
つまり俺へのメールは重要ではない、と
そーゆーことになる。


俺が勝手に乗りに来て好きに乗って帰るって
そーゆーことして迷惑がられてるならまだしも、
向こうから調教だの指導だの頼んできて
ついでに俺が帰る時に「ありがとうございました」って
言いやがる。
……俺へのコンタクトが重要ではないってことは、
調教指導を頼むのも重要ではない。
ありがとうございました、もただ形式の上で言ってるだけ。
ってことになるのね。
朝もはよから呼び出されてそれじゃ、
とっても舐められてるように思えちゃいまして。


そいつ「そんなつもりはありません」
俺「お前は女の子襲って相手がどんなに嫌がってても、レイプのつもりはありません和姦ですって言い通すの?」
そいつ「……」





……まー鬱陶しい上級生ですこと。
俺の言ったことを理解したかは知らんが、
とりあえず次からちゃんと「。」が付くようになりました。






はい、さらに次の例。





そいつの下の代の子で
なかなか上達せずに悩んでるヤツに、
個人的に身体の使い方なんぞを教えることがあった。
で、そのスケジュールの確認かなんかで、
女の子だということもあってか
まー絵文字とか満載のメールを送ってきた。




基本文章に絵文字だの(笑)だの
そーゆーのを使う習慣がない、俺。
ついでにメールが好きじゃないので
たいてい最小限の必要事項しか書きません。
それ以上が必要な場合は直接電話します。
ので、
普段どーりにさらっとメールを返したんですが、
次の日話したときにそいつが言うには、
「先輩が怒ってるのかと思いました」


……なぜだ。




聞いてみれば、
俺の飾り気のないメールが
ひどくそっけなく感じたらしい。
これには笑った。
ついでにこの子がえらい可愛くなった。




さっきの句読点と絵文字との違いは、
「マイナス」と「プラス」。
彼女の感覚でいうと
必要事項を伝えるだけではそっけないので、
絵文字だのなんだのを「プラス」して
デコレートするみたいなのね、
手間かけて。




俺「ごめん、俺絵文字とか苦手やねん」
これは「自分で使うのを禁じてる」って意味だったんだが、
絵文字そのものが苦手ととられたのか、
その後その子もあまり絵文字を使わなくなって
すげー寂しかった。
でも、
そのぶん文章でデコレートしようとしてるらしく、
メールの文がものすごく丁寧で濃くなった。
今でもこいつからメールがあると嬉しい。





……はい、
ダラダラと書きつづったところで
ようやく本題に入りますが、
ネットスラングについてです。




ここんとこ人のtwitterだのblogだのの言葉を見てると、
2ちゃんねるが起源だと思われるモノがよくあります。
そのなかでも特にすげーと思うのが、草。
つまり「w」ですな。




これの効能は凄まじいモンがあり、
例えば「死ね」って言葉を使うにあたり、


死ね
死ね。
死ねw
死ねwwwwwwwwww


書きならべてみると分かりやすいが、
「死ね」って言葉の持つニュアンスが
文脈不要で書きかえることができるのね。
こりゃ便利です。
本来なら前後の文脈がニュアンスを変えるものなのですが、
それが一文字でできちゃう。
おそらく最大三行までって暗黙の傾向があるらしい
2ちゃんねるとかに書き込むにあたって、
形成しづらい文脈を如何にフォローするかってことで
必然的に生まれたものだと思うんだけど。


んで、俺が思うに
巷に存在するネットスラングってのは
たいていがこういう効果を狙って使われてるのではないかと。
つまり自分の発する言葉のニュアンスを、
あらかじめ共有されている形式を引用し
ある程度方向づけてしまうことで、
文脈をはしょることを可能にする。




ネットスラングを用いている文章を客観的に見て思うのが、
「軽い」「柔らかい」
ってことです。
主観的に見れば
「寒い」「無責任」
ってなるんですが。




このところライトノベルネットスラングを使ってるのが
よくあるみたいですが、
「ライト」って定義が
気軽に読める、重くない
ってことだとすれば、
これは実に理にかなってることで。
ファッションに例えるなら
芥川賞獲るみてーなのは「フォーマル」で、
ライトノベルは「カジュアル」って言えるんじゃないかと。
可愛らしい女の子がでけー乳放り出した表紙の本を
カジュアルと言い切っていいかは少し疑問だが、
傾向的にね。





えーそこで冒頭の2例を絡めると、
「。」をつけないってのもスラング(ただの手抜きかもしれんが)、
絵文字やらもメールって文化から生まれたスラング
すなわち短文において文脈をはしょって方向づけるための
「技術」だと言っていいでしょう。
んで、それが今の情報伝達においてはカジュアル、
つまり使ってる側も見てる側も堅苦しくさせないための
セオリーとして扱われはじめてる、と。
それは良いとか悪いとか以前に「流れ」であって、
好む好まないは個人の自由。




ただ文脈をはしょるってことは、
以前にも述べた「空白」を作るってことでもある。
そこは受け手が自由に介入できるポイントです。
その空白を、受け手が発信側の想定通りに埋めるとは限らない。


つまり「。」をつけないってことで出来た空白に
俺は「舐めてる」って感情を想定したし、
絵文字だのなんだので作られた空白に
逆に気遣いを想定した。
スラングを用いて自分の伝えたいことを表現するなら
受け手がツール上にある傾向性に乗っていなければ
表現は発信側の意図するベクトルでは伝わらない。
それを無視してスラングを使うってことは
言ってみりゃ外国人に方言でまくしたてるのと一緒で、
単なる幼稚な暴力ってことになりゃあしないかと。
もちろん逆も然りで、
俺が怒ってるって思った女の子の例みたいに
フォーマル(スラングではないって意味で)が
相手にストレスを与える場合もある。





いずれにせよ、
受け手に対する気遣いがなければ
空白は思うように機能せず、
質の高いコンタクト(繋がり)は得られない。
ただスラングを用いる場合、
そこが少しばかり緩ーくなってんじゃねえかとね。
発信側が安易に使ってるので「寒く」、
妥協して使ってるので「無責任」に見えたりする。
このところ、そんなことが度々あったからさ。
ちょっと考察してみたわけですよ。





……さて長々と書いたところで、
ではこのannounceはどうなのか。







知らねーよ!!