君の顔に二つ開いた黒い太陽

太陽の光に濡れた新緑、
吹き抜ける涼やかな風、
澄んだ青色を羽ばたく白い鳥。


貴き理想を見上げる鮮やかな生が描く、
「美しい」と
人が口を揃えて称賛するそんな景色。
それを――


僕はどれだけ懸命に理解しようとしても、
ついぞ美しいとは思えなかった。






悦びもなく、
苦しみも悲しみもない。
光に溢れる世界は只冷めた目に映るだけで、
この心は生きているのか死んでいるのかも分からず、
流転する朝と夜を繰り返し通り過ぎた。






きっと。


それらの意味を理解できない僕は、
その世界に生きる意味もないのだろう。
それらの価値を理解できない僕は、
その世界に生きる価値もないのだろう。
この息が続く限り、
僕はずっと無意味で無価値な時間を紡ぎ続ける。


……君はどうしてそんな僕を
「大切だ」と言ったのか。






誰もが君のことを美しいと言った。
だから君は美しい。
だから僕は君のそばにいた。
君のことをもっと知りたいと思った。
君はそんな僕に応えて、
僕をどこまでも連れて行った。
僕の手を引く君は
いつも「美しく」笑っていた。






君と一緒に入れば、
僕も世界に溶け込める。
そんな気がしたんだ。
きっとそれは悦ばしいことだ。
それならお礼をしなければならない。
僕は君に一つの贈り物をした。






銀の首飾り。


長い時間をかけて、
僕が君に教わった「美しさ」の基準で
一番美しいと思ったものを選んだ。
それを手渡したとき、


「一生大切にするね」


そう言って君は涙を流した。
「美しい」涙を。
この心は相変わらず何も感じなかったが、
それでもそれは良いことなのだろう。
その日、
僕と君は手を繋いで帰った。
最後の交差点、
僕の家は右で君は左。
「また明日」
別れるとき君はそう言って
夕日を背に笑った。





次の日、
君は当たり前のように
息をせずに家の前にいた。






大切な人を抱きしめる腕を折られ、
慎ましく気持ちをささやく喉を切られ、
愛する相手との子供を宿す腹を裂かれ。


君が僕に教えてくれたあらゆる「美しさ」を
犯され、
躙られ、
奪われ、
空っぽになった君が血の絨毯の上に転がっていた。






白い太陽の光がうるさい。






ドウドウと
心に血が巡る。
熱い。
熱い?
僕は君の空っぽの目を見る。
昨日まで豊かに感情を語っていたその目は、
今は何も映さない深く虚ろな空の洞。
どこまでもどこまでも
深くどこまでも続く洞洞と胸が高鳴る。
この目は縫いつけられたか乃ように
君に魅入って動かぬドウドウ。
形の崩れた君の顔に二つ開いた







黒い太陽の光が 美しく


ritsuka