睨み合い

さっきズブ濡れで歩いてたら、
なーんかアパートの軒下で
こっちをジッと見ている奴がいる。





目が合う即ち殺し合い、
みたいなそーいうのは
いやもうホント鬱陶しいんで勘弁してほしいんですが、
ちょいとばかり不機嫌だったこともあって、
こう、
ガンの飛ばし合いみたいな状況になってしまった。
もしかしたら昨日読んだWORSTの影響もあったのかもしれない。





で、
お互いに攻める気があんまりないときの睨み合いってのは
なかなかに無駄なモンで、
目を逸らしたら負けた気がするのか、
別にやり合うつもりもないのに延々と見つめ合うハメになる。
傍から見ると馬鹿二人にしか見えない。





そんで結局、
そのアパートの住人が帰ってくるまでおよそ十分、
俺とヤツはメンチをきりあうことになった。






……まあ、
相手はネコ号だったわけですが。







もんのすごい蔑んだ目で俺を見ながらアパートに入る住人(女性)。
ネコ号逃げる。
俺も逃げる。
静けさの戻ったアパートの前、
雨はしとやかにアスファルトを濡らす。






……いやいや待て待て。






その、いくら僕だってまがりなりにも人間。
野良ネコ号相手に凄まなければならないほど
人生追いつめられてはいません。
……うん、いない、と思う。


あのね、ちょっと興味が湧いて来たんですよ。
ほら、
野良ネコ号っていつもじーっと見てくるじゃん?
それをじーっとずーっと見返してたらどうなるのかなって。
だからやってみたわけ。





およそ一分弱は、
ヤツも目を逸らさずにこっちを観察しています。
しかしながら一分を過ぎる頃から、
「なんか変なのに目ェつけられてもうたわ……」
みたいな感じで
居心地悪そうに周りをキョロキョロしだします。


そこで
一発手を叩いてみたり靴を擦ってみたりして、
ヤツの意識をこちらに戻させます。
このとき、
ヤツが逃げ出さない程度、
ほんとに意識がこっちに向くだけの強さで音を立てるのがコツ。


すぐさまこちらに目を戻すネコ号ですが、
今度は数秒と持たずまたキョロキョロしだします。
もう集中力は皆無です。
また音を立てますが、
このときはさっきより少し強めに鳴らすべし。
でないと反応しません。
集中力は皆無ですから。


で、
今日の場合はそれを数十回繰り返したところで
ネコ号がちょっとやそっとじゃもう
こっちを見てくれなくなったので、
「おいコラ!」とか怒鳴りながら
僕とネコ号を隔てる格子をガシガシ蹴りだしたところで、
アパートの住人が帰ってきたというわけです。
ちなみにその住人が後ろから横を通り抜けるまで
全然気づかず野良ネコ号を威嚇してました、俺。






ということで、
ガンの飛ばし合いには開始一分で勝利してますので、
御心配は無用です。
ただズブ濡れでずっとやっとったので、
風邪のほうは少し心配してください。






よくニワトリみたいに
首をカクカクさせながら急接近してくるチンピラがいますが、
いや、よくはいねーけども、
ネコ号さんもあんなんの相手してる気分だったでしょう。


ritsuka